今日(10/26)のAFPの配信記事を読んで、とうとうこういう時が来てしまったか、とため息が出ました。

記事の内容は、米競売大手のクリスティーズのオークションで25日、コンピュータのアルゴリズムによって制作された肖像画が43万2500ドル(約4844万円)で落札されたというものです。
AI(人工知能)による芸術作品が大手のオークションで落札されたのは今回が初めてだそうです。

落札されたのは、黒い服を着た紳士の肖像画「エドモン・ド・ベラミー(Edmond de Belamy)」。
一見しただけでは18世紀か19世紀のありふれた肖像画のように見えます。

AIによる肖像画

ところがよく見ると、この絵画は非常に興味深い手法が使われています。
紳士の表情はぼやけており、まるで制作途上にあるようにも思えるからです。

この作品は、AIを使って芸術を民主化することを目指すフランスの芸術集団「オブビアス(Obvious)」による作品です。
制作に当たったピエール・フォートレル氏は制作にあたり、古典的な肖像画1万5千点をAIのために処理し、データベース化したそうです。

フォートレル氏によると、「肖像画法の規則性を理解」したソフトウェアは人の手を借りずに次々と新たな画像を生成したといいます。
なお規則性の学習には、米Googleの研究者イアン・グッドフェロー氏が開発した新たなアルゴリズムを使ったとのことです。

オブビアスはAIが制作した作品のうち11点を「ベラミー一族」と名付け、その内の1点が今回競売で落札されたわけです。

落札者は匿名です。
おそらく歴史的価値を感じて入札したのでしょう。
いくらなんでも高すぎますよね。
競売前の予想では、7千~1万ドル(約78万~112万円)だったそうですから。

絵の右下には、画家の署名の代わりに数式が記されています。

署名の数式

さて、この出来事をどう見るかですが、
遠からず、こういう日が来ることは分かっていました。
今後、著作権の概念は大きな変革を迫られるでしょう。
現在の法制度では対処することが不可能ですが、法関係者のAIへの理解は進んでおらず、大きな混乱が起きることは目に見えています。

考えてもみてください。
歌謡曲や演歌などであれば、AIは作詞作曲ともに一晩で何千曲も作ることが可能です。
その中には名曲に近いものだってあるでしょう。
良さそうな物を人間が選んで手を加えてもいいのです。
そして、自分の作品として発表すれば分かりませんよね。

彫刻など、もっと深刻です。
3DプリンターでAIが作ったものを真似て人間が彫り直してもいい。
まさかAIの作品だなんて誰も思わないでしょう。

そして、AIの作品だとして発表した場合、その著作権はいったい誰のものなのでしょうね。
AIに法人格が認められていない以上、単に早いもの勝ちになりそうです。

そして、多くの方が誤解していますが、
AIが得意なのは模倣ではなく創造なのです。
人間が作り上げた沢山の成果をデータベースとして蓄積し、そこから何らかの法則や規則を得て、それを元に新たな手法を開拓するのです。

人間だって、先人の成果を学び、師匠の手法を模倣するところから始めるでしょう。
そして、優れた芸術家は新しい技法を確立し、オリジナリティのある作品を制作する。
AIがやることはそれと同じです。
ただ、あまりにも桁違いのスピードがあるだけです。

最近、将棋との関連で説明することが多く、将棋に興味のない方には恐縮です。
比較が容易なもので使っています。ご容赦ください。
将棋の世界では、既にAIによる新しい戦法を人間が真似るところまで至っています。
何百年にも及ぶ将棋戦法の歴史をAIはわずか数年でひっくり返してしまいました。

さて、困りましたね。

これまで、人間が優位に立つと思われていた芸術の分野でも逆転しそうです。
でも、わたしは慌てる必要はないと感じています。

やっと人々が本当の価値に目覚めると思うからです。
それは、物に込められた精神的な価値です。

偉い先生が描いた絵画を贈られるよりも、自分で描いた多少は拙い絵でも、心がこもっていれば嬉しいということです。
店で買った高級セーターよりも、心を込めて編んでくれたセータを贈られる方が嬉しいということです。
レストランで高価な食事を奢られるよりも、冷蔵庫に残った食材で工夫して作ってくれた食事の方が有り難いということです。

全ての面で、人間がAIやアンドロイドに優位を奪われた後でこそ、本当の人間の価値に気づくのかも知れません。
それは、間違いやすくて、気まぐれで、愚かな点です。

技術的にはAIに完全に制圧された将棋の世界で、人間はそれを証明しようとしています。
AIは絶対に選ばないけど(戦術的には劣るけど)、人間的に美しい手を人間は指すことができます。
そして、人間的な指し手の応酬は観る人々を感動させることができます。
間違い、悩み、後悔しながら、戦う姿は人間だけのものです。
AIは間違いませんから。
でも、人間は必ず間違い苦悩する。
だからこそ、人間の姿は美しく、それは逆転につぐ逆転を呼び、観る者に感動を与えるのです。

今回落札された肖像画を見て、何となく思いました。
もしかしたら、AIはそのことを分かっていて、不完全な感じに仕上げたのではなかろうか。
もしそうだとしたら、さすがですね。
多少、愚かで間違うことの出来るAIが登場したとき、わたしたちはどうしたらいいのでしょうね。